読んだ本

ご破算で願いましては・・・

『うらおもて人生録』(色川武大著 新潮文庫)より引用する。

「俺たち、戦争を知っているからね。見渡すかぎり焼け跡で、ああ、地面というものは、泥なんだな、と思ったんだね。
そのうえに建っている家だとか、自動車だとか、人間だとか、そんなものはみんな飾りであって、本当は、ただの泥なんだ、とあのとき知ったんだ。」

「だからね、戦争が終わって、まだ家が建ち並んで、人間がうろうろするようになったけれども、これは何か普通じゃない。ご破算で願いましては、という声がおこると、いっぺんに無くなっちゃって、またもとの泥に戻る。」

この文章が色川武大だということは覚えていたが、いったいどこの書かれていたのか、見つけ出すのに苦労した。やっと見つけ出してこうして書き出してみると、やはり彼の偉大さがよくわかる。

戦後のどさくさ時代に、したたかな博打打ちたちと伍して生きしのいできた彼が、認識し、了解した世界観は、自分にはどれもしっくりきて納得するものばかりだ。
『うらおもて人生録』には「向上しながら滅ぶ」という章もある。引用する。

「・・この発明によって、人類は欲しいものを手に入れて、そのかわり終末に一歩近づいたわけだね。・・ものすごい発明が人類の大きなプラスになったとしても、何も失わずにプラスだけが手に入ったわけじゃない。作用があれば、必ず反作用という逆の力が働く。
・・勝ちだろうが負けだろうが、あるいは、発明が成功しようと失敗しようと何かをやれば、かならず何かをうしなう。」

いちいちが身に染みる。
「ご破算で願いましては・・・。」
天からの声が世界に響き渡る日は、確実に近づいているにちがいない。