テレビで見た

阿修羅のごとく

毎朝、新聞のテレビ欄をチェックしてその日に録画する番組を選ぶ。
BSは全録していないので、BS世界のドキュメンタリーなどは素材によって録画するかどうかを決めている。プレミアムカフェ(BSプレミアム)もチェックする番組の一つである。

新聞ではプレミアムカフェに向田邦子の記載があったので、録画設定しようとしたら、設定画面では別の内容が放送予定となっている。
ピンときた。八千草薫だ!
大女優の死で、急遽予定を変更したに違いない。
案の定である。昨年プレミアムカフェで放送した「阿修羅のごとく」を再放送するらしい。

これは見ないわけにはいかない。「阿修羅のごとく」は自分にとっては生涯ベストワンのテレビドラマなのだから。

タイトルバックに流れるメフテルはその華やかな旋律にかかわらず、不穏な空気を醸し出し、視聴者の不安を煽り立てる。トルコの軍楽曲であるメフテルは、演出の和田勉がわざわざ現地に飛んで録音してきたものだ。

加藤治子(綱子)が、鏡餅を砕いて揚げたかき餅で、差し歯を折ってしまったと口をふさぐ演技のリアリティに打ちのめされて、以降、ずっと大好きな女優1位のままだ。

大路三千緒(ふじ)が、夫の洗濯物からミニカー(夫の愛人の息子のもの)を発見して、ふすまに投げつけたときの形相。これは、ふじら母子5人で鑑賞した文楽(『日高川入相花王』)で、清姫が変身した鬼女の表情とダブって、その後何回も夢でうなされることになったものだ。

ふじの夫役の佐分利信(恒太郎)。「阿修羅のごとく」の後に観た「日本の黒幕」のフィクサー役とともに、これまた圧倒的な存在感に打ちのめされ、ひそかに男優ナンバーワンと慕っていた。
佐分利信自身は、パート2でふじ亡き後の、情けないやもめ男を演じるのが気に食わなかったらしい。怒って稽古場から勝手に帰ってしまったこともあったそうだ。

土曜ドラマ枠での初見以来、「阿修羅のごとく」が再放送されるたびに録画をし、何度も懲りずに見直している。
何度見ても、メフテルが流れた瞬間から引き込まれ、初見の時と変わらずにはらはらし、いしだあゆみや風吹ジュンなど、その後ひと花もふた花も咲かせた女優や、俳優としても異能を示した宇崎竜童たちの、エポックとなったはずの演技を堪能するのである。

八千草薫(巻子)は当時48歳。夫役の緒形拳(鷹男)はまだ42歳だった。いやあ、若いなあ。
これまでは何となく鷹男目線でドラマに入り込んで見ていた。しかし客観的に見れば、むしろ70歳だった佐分利信の恒太郎の方が近くなっている。

恒太郎は、火曜と木曜しか出勤しない゛火木の人”にして寡黙の人である。そろそろ自分も、年相応に、寡黙の似合う男になりたいものだ。